2000年度

福島大学地域政策科学研究科

「地域社会と社会心理」

カナナデータ研・レポートの紹介(第8回)

大学院「地域社会と社会心理」(火曜夜7限)では、「データとは何か」なる曖昧なテーマをかかげて、いろんな方々に話題提供をいただく研究会方式の運営を行うことにしました。研究会の愛称は「カナナデータ研」にしました。以下は参加した院生諸氏のレポートです。

日時:2000/9/24 19:40〜

場所:行社棟3階  中会議室

講師:マホニー・ショーン先生(行政社会学部) 「JETプログラム参加者の教育活動に関する意識調査―自由記述回答の分析―」

鈴木実  JETプログラムとは,文部省や外務省の支援のもとに述べ6000人以上が参加して行われている,英語教育に関するプログラムである.日本での中学校,高校における英語の授業に,ネイティブスピーカーがTeam Teaching のかたちで参加し,実際の英語に触れさせようとするものである.この試みは,経験者の95%以上が友人にプログラムへの参加を勧めるなど,概ね好評なようであり,また日本の英語教育にかけているところを比較的補うことができるという点などからも評価できるものであるようだ.

 しかし,このJETプログラムにも問題がないわけではない.すなわち,英語のネイティブスピーカーが,あくまでアシスタントという位置付けにあり,授業への参加が単発的である.あるいは,参加しても,あたかもテープレコーダーの代りであるかのような参加しかなされないというようなことである.

せっかくネイティブの英語に触れ,英語での思考を学ぶ機会であるのに,それをみすみす無駄にしてしまっている現状に対して,プログラムの改善を考えなければならず,そのためアンケートを11月と1月に実施した.アンケートは2000人に配布し,1600人からの回答を得られたという.今回の発表はこのアンケートの結果を元にしたものとなっている.

今回のデータの最大の特徴は,アンケート結果を,数量的な把握ではなく,自由記述によって得られたものを,質的に纏め上げたものである,という点にあろう.現象のある側面を切り取って,精選したものが数量的分析結果には現れる.当然それは結果として形式上は申し分がない.しかし,残念ながらその場合,ある個人の意見,一人一人の生の声が聞き取れないとも言える.今回のデータはその生の声に注目したものと考えると大変興味深い.

データの分析に使用された方法は,KJ法に準拠したものと思われるが,これは,ある現象に対して集められた質的なデータを,ボトムアップ的に集約していき,最終的に,その現象をカテ
ゴリー化して把握するというものである.数量化できないようなデータを,いわば手作業によって因子分析するといったようなものと考えることもできるだろう.

今回のデータ分析に関して,最も興味が引かれたのは,集約されカテゴリー化されたデータから,常に下位カテゴリー,ロウデータにあたることが可能であるというまとめ方であった.質的なデータを使用する利点は,常にその現象のありのままを,じかに示すことができるという点に求められる.そうした取り組みをするにあたって,今回の結果の整理方法は大変参考になるものであった.

しかし,質的データを扱う上での難しさも実感させられた.アンケートの回答が自由記述であることから,その記入のフォームが回答者によってまちまちであるということが一点である.これをどう処理して行くのかということがかなり難航するのではないだろうか.第2点はカテゴリー化する上であまりにも意見が分散化しているような場合である.100人に聞いて100の意見が集まりましたでは,どうにもまとめようがないし,研究というスタイルではそうもいっていられないということが,かなり難しい問題として現れてくるだろう.


カナナデータ研  佐藤達哉(社会心理学研究室)  福島大学行政社会学部