2000年度

福島大学地域政策科学研究科

「地域社会と社会心理」

カナナデータ研・レポートの紹介(第7回)

大学院「地域社会と社会心理」(火曜夜7限)では、「データとは何か」なる曖昧なテーマをかかげて、いろんな方々に話題提供をいただく研究会方式の運営を行うことにしました。研究会の愛称は「カナナデータ研」にしました。以下は参加した院生諸氏のレポートです。

日時:2000/7/4 19:40〜

場所:行社棟3階  中会議室

講師:梅宮新偉先生(福島学院短大) 「月経前症候群について」

鈴木実  PMS(Pre Menstrual Syndrome)=月経前症候群についての講義であったが、PMSという病については、ほとんど認識がなかった。自分が男性だから知らなかったというよりは、やはりPMS自体の認知度が比較的低いと考えられるだろう。PMSは、ばらつきはあっても、実に60%近くの女性が経験しているという。

 このPMSが、日常生活に支障をきたす生活障害の原因となって、心身症を引き起こすことがあるという。PMSには身体症状と精神症状を含め150以上の症状があるという。いくつかPMSの原因とされるようなものはあり、ひとつには、黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌が活発になったときの反応ではないか、というものもあるようである。しかし原因は今だ不明であり、明確な対処ができないというのが現状であるようだ。原因も明確でなく、症状も様々であることから、その対処としては、対症療法がほとんどと成るようである。基本的にはその症状に合わせ、マイナートランキライザー(坑不安薬)や坑うつ薬、あるいはSSRI(新世代坑うつ薬)などを服用することで対処するようになっているようである。

 そこで、PMSという病であるということを特定するような心理アセスメントのために、指標となるものが必要となる。今回の講義ではまず、MDQと呼ばれる尺度が、PMSを特定できるかどうかの有効性の検討について行った調査について述べられた。

 MDQは51項目から成っているものであるが、心理、人格的要因と社会、文化的要因とのバイアスなどによってPMSに関する認識が違ってくる可能性もあり、そのため性役割観(BSRI)やあるいは自尊感情などの項目も付与して、女子大生に対し調査をし、その結果、MDQはPMSを特定するのに有効であるという結果が得られたという。

 次に、PMSは生活障害をきたすこともあり、例えば夫婦間のQOLを損なう原因となっている。そこでMDQを用いPMSへのお互いの認識を高めることで、QOLの向上が可能ではないかという仮説のもとに、6組の夫婦を2群にわけ、MDQが、PMSが原因となる生活障害を克服し、QOLを高めるのに有効であるか、をTEGとの相関を取ることで検証した。

 すると、MDQを実施した夫婦のほうが、実施以前よりもTEGのエゴグラムの結果が好転していた、という結果が認められ、QOLを高めるということに関してもMDQは有効であるのではないか、という結論に至ったという。このような研究方法は、ある種の尺度の有用性を確認し、さらにその尺度の有効な利用を目指したものであると感じた。従来PMSと判断するために行われてきた方法は被験者に非常に負担を強いるものであって、そのため、より簡便な方法を模索する必要があったのだ。このようなアプローチは、尺度の構成やあるいは項目のワーディングなどにおいて重要な視点であると考える。当然の話だが、他者に対し何かを要求するときは、その負担が少ないにこしたことはないだろう。そうした観点から尺度の構成とその利用に関するデータの扱いを見られたというのは興味深かった。


高橋明美 梅宮先生はアイデンティティ構築不全について興味をもち、今回のテーマを研究することになった。今回は大きく2つのテーマに区切って話された。

 「月経前症候群のMDQによる初期的判定について」PMSとは、月経が開始する3〜10日前から始まる症状で月経開始とともに減退ないし消失する症状である。MDQはこのPMSを判定する尺度である。PMSの原因は不明であるが、予想される原因項目は11個ある。その中に精神因子説などもあげられる。PMSの治療の現状として、原因不明、患者・医師間の信頼関係構築困難、本人のPMSみ関する知識不足から放置されているケースが多い。MDQの有用性検討を行った。調査対象者にMDQを用いて月経時の自身の状態について想起してもらい、回答を因子分析した。その結果、51項目が有効な項目として残った。MDQの下位尺度項目内容として痛み、負の感情などがある。所属集団などの文化背景からの影響により差が生じる可能性はあるのか、これは質問紙法を用い、調査を行った。MDQ−PMS値より求めたPMS及び疑PMS保持者の割合、MDQ下位尺度とSE−1、BSRIの因果関係から検討する。結果、MDQは心理・人格要因はほとんどない。MDQは想起法を用いることにより患者に精神的負担をかけずにPMS可能性をしらしめることができる。

 「PMSに起因する夫婦間人間関係のMDQによる改善」PMSにより生活障害がでる場合、その人は治療対象者となる。その場合、薬を使うのが患者の苦痛をやわらげるのに最善の方法である。主に抗うつ剤や、抗不安薬を使う。中でも抗不安薬ではセルシンなどが使われる。 MDQはPMSの症状が細かく述べられていることから、生活の中のリズムを自分でコントロールするのに有効である。そこで以下のような実験をおこなった。MDQ下位尺度5個以上ある対象者夫婦、実験群3組、統制群3組を選出する。実験群にはMDQを施行してもらい、統制群にはそうしなかった。そして、PMS時の夫婦それぞれのTEGをみた。結果、実験群の男性はACの減少、NP,A,FCの増加、女性はFCの増加、CP,AC,の減少、統制群では男性はCP,NP,Aの増加など。エピソードとして実験群の男性はいらいらする回数が減った、女性は自分の体の状態を考えるようになった、というものだった。

 結論 MDQは 1、PMSを理解する機会を提供する 2、個人の心の状態を変

える 3、人間関係を改善する

 MDQについていろいろな角度からみて有用性を実証しようとしている。授業の中でMDQが患者の記憶に頼るため誇張されるという話があった。「固定する必要はない、後でしぼればいい」をいうことだったが、こうして得られたPMS患者、疑PMS患者を実際「PMS患者だ」と断定できるか。そしてSE−1、BSRIの因果関係はどれくらい信頼できるものなのか。また後半のTEGだが、実験群と統制群の差は純粋にMDQだけによるものなのか、私は他の要因もあるのではないかと思った。


斎藤久美子  1部では、月経前症候群(以下PMS)を外的に判断する方法がないため、簡単に判断する方法としてMDQという質問項目は適切かの検討を行っている。ここではMDQが、社会・文化的要因や心理・人格的要因から影響を受ける可能性があるため、自尊感情を測るSEI・性役割観を測るBRSといった尺度による測定結果と、MDQの結果の比較を行っている。その結果、2つの間に関連は見られず、MDは所属集団などからの影響がほとんどないことが明らかになった。

 第2部は、MDQを行うことによって夫婦関係が改善するかを見るため、MDQの前後で心のバランスを測るTEGを行い、前後の変化を見、さらにMDQを行わないグループと比較を行う。その結果、MDQはPMSを具体的に理解する機会を提供し、個人の心の状態をも変えることが明らかになった。

 梅宮先生の研究では知りたい対象がPMSかどうかや、性役割観や自尊感情、心の状態など、直接知ることができるものではないので、代わりにMDQやSEI、BRS、TEGといった尺度を用いて、その結果をデータとして用いている。「心理」は目に見えないから目に見える形にしないとわからない。実際の問題を解決していくために、普通の感覚からすると現実離れした感じのする尺度が役に立っているのだな〜と少し感慨深かった。


大門信也 月経前症候群(以下PMS)は、月経前の女性に様々な自覚症状を引き起こすが、現在原因は不明である。そのためPMSと思われる患者に対して医師やカウンセラーは明確な治療やカウンセリングが行えず、患者との信頼関係を築くのが困難な状況である。こういった中、PMSの同定及びPMSによる生活障害の対処療法的な緩和のため、DMQという想起方の有効性を検討したのが今回の研究発表であった。

 これらのため、梅宮先生は2つの研究を行っている。研究1:女子大生を対象とし、DMQによってPMSの患者がどれだけ出るか、またDMQの結果に被験者の出身地域差や社会的・文化的なバイアスがかかっているかを検定により検討した。研究2:6組の夫婦に対し、DMQを使った場合と使わない場合に、夫婦間の関係にどのような違いがでるかをTEGを使って検討した。これらの結果、研究1ではDMQはその結果に地域差や文化的・社会的バイアスが認められないため、PMSの同定法として有効と結論付けられ、研究2においてはDMQが夫婦関係改善に有効と結論付けられた。

 研究1に関し梅宮先生は、この研究はPMSの原因特定を目的としていたのではなく、生活障害を起こしている人の中からPMSの人を洗い出すために、最低限PMSの可能性がある人を取りこぼさないという目的があったという。つまり、この研究におけるデータとは、犯人(PMS)を同定するための“決定的な証拠”というよりは、犯人を大雑把に洗い出す“網の上にのこったもの”であったのである。すなわち、PMSの原因究明ではなく、DMQの治療及びカウンセリングに有効なツールとしての有効性を示すために取られたある意味実践的なデータであった。

 この点はデータの有り方として今回の特筆すべき特徴であったと思う。梅宮先生は研究1の研究発表を行ったさい、心理学者達の「なんでPMSを同定することが出来ないような研究をするのか」という反応が印象に残ったと言う。既に述べたようにこの研究の目的は網をかけることだったわけで、その点からすれば、心理学者達の疑問や批判は意味をなさない。つまり、研究の目的によってデータの意味が変わってくることを示しており、「研究を行う立場とはどいういうことか」についてを考えさせられた点であった。


カナナデータ研  佐藤達哉(社会心理学研究室)  福島大学行政社会学部