2000年度

福島大学地域政策科学研究科

「地域社会と社会心理」

カナナデータ研・レポートの紹介(第2回)

大学院「地域社会と社会心理」(火曜夜7限)では、「データとは何か」なる曖昧なテーマをかかげて、いろんな方々に話題提供をいただく研究会方式の運営を行うことにしました。研究会の愛称は「カナナデータ研」にしました。以下は参加した院生諸氏のレポートです。

日時:2000/6/6 19:30〜

場所:行社棟3階 303号室

講師:佐々木康文先生 『データからみた家電産業の構造転換』

鈴木実

データからみた家電産業の構造転換と言うことで今回の講義は行われたが,それはつまり生産過程での情報化が進行し,メディアを形成する主要産業としての家電産業を「事実にそくして歴史的に」みていくことが目的で,データとしては家電製品の生産の推移などが示された.その推移の過程は3期に分けることができるという.第1期は1980年〜84年,第2期は85年〜91年,第3期は92年〜現在までということである.この3期に先駆けた70年代の傾向から始まったが,この時代は輸出主導型の生産構造という性質が強まった時代である.この性質を強めた要因というのは自動化の推進などであった.それは電子・電気各社の女子作業員数の推移データで如実に示される.いわゆる女工による手作業が減って行った過程が数字として明確に顕れているのである.この自動化などによる生産競争力の強化は80年代前半の第1期においてVTRが登場し,さらに輸出主導型の生産拡大という形で進んで行く.家電製品生産推移の数字を見ればその大幅な増大が把握できる.第2期にあたる85年〜91年はバブル景気による大幅な内需の拡大が見られ,かつアジアへの海外生産シフトが活発化している.91年に家電の総生産額はピークを指している.92年〜現在では輸出主導型生産拡大構造からアジアを中心とする世界的な最適生産へ転換しているという.このことは日本経済の産業構造の変容を物語っている.このような家電産業の歴史的な推移は,全て数字で正確に示されたデータによっている.そのことに関しては非常にすっきりと示されている.それよりも印象に残ったのは,こうしたデータは孤立したものではなく関係の結果,つまり人と人との相互作用の結果が現れているのだという佐々木先生の言葉であった.データとは人間の営みの足跡であるという.また,たまたま見つけたデータという話が出たが,そのたまたま見つけるということの裏に,どれだけアンテナを張り巡らせ,労を費やしたかということも話題にのぼり,非常に興味深く聞くことができた.


高橋明美

 私は佐々木先生の、家電産業を研究しようと思った理由、1.メディアそのものを作っている 2.生産過程の情報化 3.1つのトータルな産業をつくろうという見方がある、という3点に興味をもった。。

 先生のお話は、そうしたやりたい、という意志が感じられる生き生きとした発表だったので楽しかった。具体的には、70年代からの家電の移行などがデータを通して示され、先生の見地が述べられる。

 今後は「生産と社会の調和」、「発展途上国への家電の普及化」という視点からみていく、とのこと。「家電」という分野は、いろいろな見方があるのだな、と思った。また、「まとめあげていくのが研究だ」というお話があったが、少し疑問を感じた。

 後半の「データ」については、人間同士の関係をあらわす、数字だけでものを言えるとは限らないし、しかし言える部分もある、どう扱うかが問題、などデータを扱う難しさがわかった。中でも「数字は活動の跡である」という話が印象に残った。

 先生の話を通して、研究は、研究に対する熱い気持ちが大切なのだな、と感じた。


斎藤久美子

 データに明瞭に現れている家電産業の構造転換の特質を、データに即して分析し、特徴を把握するのが佐々木先生の目的である。70年代には、円高やオイルショックにもめげず、生産の自動化を行い輸出主導型の生産が拡大する。貿易摩擦で海外生産が推進される。1980〜85年には、VTRの登場により、輸出主導型の生産拡大構造は強まっていく。85〜91年には、円高、バブルで内需が拡大する。92〜現在では、バブルがはじけ、国内出荷台数の減少と価格の低下の進行がおこる。これらの時代の特徴は、生産額、従業員数、出荷台数などのさまざまな数的データから、明らかにされるのだ。先生の研究では、すでに別の人によって収集してあるデータを発掘して、整理して、分析を行う。自らデータを取るという手間がない分、データ分析の前段階で、欲しいデータを見つけるのに多大な時間と労力を費やす。佐々木先生にとってのデータとは、数字の裏にひそむ「関係」を掘り起こすための材料である。


大門信也

 佐々木先生によれば、日本における家電生産の構造転換は、@70年代から80年代前半にかける、輸出の増大によって国内生産を増大していった時期、A80年代後半における、バブル期の内需拡大により国内生産が増大した時期、B90年代における、低価格化が進行し、国外生産の増大と国内生産の減少が進行した時期に分けられるという。

本講義では、このような構造転換の流れが、国内外の家電生産額の推移、労働従事者の推移、あるいはテレビやビデオ、エアコンの生産台数の推移など、様々なデータによって明らかにされ、まさしくデータが“決定的証拠”となっていた。

 ここで扱われたデータは、研究者により作成されたものではなく、様々な公的機関が作成したものである。この場合、データの作成ではなく、その収集に大きな労力が払われる。この点は、史料の発掘に多くの労力が払われる歴史学に近いという印象を受ける。

 ところで、“歴史”という言葉は過去に行われた出来事だけでなく、その記録も意味する。ここでのデータは“日本の家電産業の構造転換を示している数値群”であり、ある社会現象の時間的変遷が数値の変化によって記録されている。その意味で、本講義における“データ”とは、まさに“歴史”と言えるのではないだろうか。

 “歴史”としての“データ”などと、大仰な話しになってしまったが、その点が、人の意識や行動を断片化するようなデータの在り方と、大きく違っていた部分であり、興味深い点であった。


カナナデータ研  佐藤達哉(社会心理学研究室)  福島大学行政社会学部