2000年度

福島大学地域政策科学研究科

「地域社会と社会心理」

カナナデータ研・レポートの紹介(第15回)

大学院「地域社会と社会心理」(火曜夜7限)では、「データとは何か」なる曖昧なテーマをかかげて、いろんな方々に話題提供をいただく研究会方式の運営を行うことにしました。研究会の愛称は「カナナデータ研」にしました。以下は参加した院生諸氏のレポートです。

日時:2000/12/12 19:40〜

場所:行社棟3階  中会議室

講師:藤岡岳之さん(教育院生)「気象衛星ノアのデータとその処理」

鈴木実 今回は藤岡岳之氏による「NOAA衛生のデータの画像表現について」というテーマの発表であった。衛星観測は広域を短時間に測定可能であるが、精度が低く3次元には測定できないという特徴を持つという。このような特徴を持つ衛星から気象情報がバイナリ形式で送られてくる。従来の開発環境では、そのデータそのままでは使用できないのでcsvデータに変換され分析されていた。今回の環境では生データをそのまま使用できる環境を構築してよりスムーズな分析を可能としたという。藤岡氏の研究は、観測衛星から送られてくる気象データをいかに画像表現するかを検討している。現在は2次元モノクロ画像としてのみ出力されているが、今後の課題として2次元カラー画像の表示や、3次元画像の表示を目指しているという。データとしてはまさに数量的なものの典型といえよう。数値として示され送られてきたもの以外に一切主観が入り込むというものではない。数量的なデータから,それが意味するものを読み解くといった作業ではなく、まさに純粋に数値のみが表現されるべきでデータである。非常に厳密な世界であり、ここでは,どう読み解くかということより、いかに精度を上げたデータを、どのように処理するかが問題となっている。しかし一方で、このように厳密な処理を受ける数量的データによる研究も、それをいかに有効に活用するか、しいてはそれをいかに日常に応用するかということが求められてくるであろう。藤岡氏の研究は、気象データをいかに分かりやすく表現するかということ、つまり気象予報などにつながってくるであろうもののベースとなるような研究であると考えられる。今回の発表からは、データがどのようなものであるのかということよりも、いかに有効な利用に結びつけることが可能であるかを考えていかねばならないのではないかということを考えさせられて発表であった。

斉藤久美子 この研究はNOAA衛星から送られたデータをどのように画像で表現するのかということが目的であるが,発表のはじめに「問題」とか「目的」がなかったのでわかりにくかった.また,観測の「対象」について言及されておらず,結局雲が見たいのか植生が見たいのか何のために何を表現するのが目的なのかがわからなかった.
NOAA衛星から(おそらく)数字で送られてくるデータを画像に置き換える作業を行う上で,これまでのマシンやOSでは,移植性がなかったり,高価であったり,または実行速度が遅かったりと,問題点があったものを,別のマシンやOSを使うことによって環境をよくするというものである.Linuxの開発というのがこの研究のセールスポイントだそうだ.今後の課題としては,これまで手作業だった雲の認識や,カラーや三次元での表現などが挙げられる.
これまでカナナ件で発表された多くの研究が概ね「知りたい対象→対象を知るためのデータ収集・分析→結果」といスタイルを取っているのに対して,藤岡さんの研究は「まずデータ→(対象ではなく?)データの表現方法(機械?)開発の模索」というものであった.これまで私が親しんでいた研究と比べて,藤岡さんの研究は,内容が全く異なるばかりでなく,研究の「対象」よりもよりよい「道具」の発見や開発が目的となっているという点で大きく違っている(というかデータが対象そのものというべきか.レジュメの構成を見ても「対象」についての記述がなく,技術的なものにほとんどの紙面が割かれていることは明らか).わたしにとってはすごく異質な研究だったわけだ.だから私は発表に戸惑ったのだろうと思った.

大門信也

高橋明美  今回の発表は、私の関わる分野とは異なり専門用語が多かったため、正直、とまどった。そして、心理とは違い、物事の対象が「ON」か「OFF」かで判断される。
 発表が進むに連れて、「心理学って信憑性ないっすよね」という藤岡さんについて、だんだん理解できたような気がする。こういうことを毎日やっていたら確かに心理などの学問を不思議に感じるだろうな、と思った。
 私にはちょっと理解しづらい「衛生のデータ」について発表をしている藤岡さんを見ていたら、飛田先生の「おもしろさを感じる、ということは何かが生まれてくる予感がする」という言葉を思い出した。「データ」に向かい、取り組む、ひとつの形をみたように思う。「ひまわり」から「NOAA」へ転向した経緯が聞けたことも良かった。
 さて、藤岡さんは「どのように画像表現を行うか」「どのようにデータを加工するか」について研究を深めようとしている。しかし、植生指標値の数値による実際の植物の分布について話題になったが、よくわからないという藤岡さんの答え。自分はデータや画像表現の部分は担当するが、その他は現場の担当者にまかせたいという意向のようだった。
 もう少し、視野を広く持ち、視点を変えた見方をすれば今の研究から一歩踏み出せるのではないか、と思った。


カナナデータ研  佐藤達哉(社会心理学研究室)  福島大学行政社会学部