2000年度

福島大学地域政策科学研究科

「地域社会と社会心理」

カナナデータ研・レポートの紹介(第11回)

大学院「地域社会と社会心理」(火曜夜7限)では、「データとは何か」なる曖昧なテーマをかかげて、いろんな方々に話題提供をいただく研究会方式の運営を行うことにしました。研究会の愛称は「カナナデータ研」にしました。以下は参加した院生諸氏のレポートです。

日時:2000/11/14 19:40〜

場所:行社棟3階  中会議室

講師:今西一男先生(行政社会学部)「自治体の政策形成と量的調査の実施」

鈴木実 首都圏の30km圏ベッドタウンとして都市化が進行し、人口が急増している埼玉県大井町における事業系ごみの実態調査をめぐる発表であった。大井町での調査における背景は、人口増加に伴なうごみ処理量の増加が切実な問題となっており、町としてその対策が急務であるということに起因している。政策課題として極めて切迫しており、量的な分析が必要とされたのであった。調査は大井町の全事業所及び団体に対する悉皆調査を郵送調査法で実施したものである。この調査は民間の都市計画コンサルタント会社が請け負ったもので、97年、98年の2度にわたって行われている。事業所を把握することから作業が始められていくわけであるが、その作業は事業所に関する台帳の作成から開始するというものであった。というのも、目的外流用として課税台帳を使用することができなかったことによる。このような手間のかかる作業から、ベースとなる台帳を作成し、これをもとに調査表を配布していった。社会調査等を行う上で、こうした地味な作業をないがしろにすることはできない。基礎的なデータをもとにその後の調査が進行していくわけであるから、ここにおいて調査の出来が決定するともいえよう。この調査においてもかなりの手間がかけられているという話であったが、しかし台帳の重複やそれに基づいて配布されるべき調査表が非常にいいかげんに作成されていたということであった。そのため、第2次調査は回収票のエディティングから始められているという。エディティングという作業は、事業所への直接確認などを通じて、死票を有効票にしていく作業である。このように2重3重の手間がかかってしまう可能性を考えると、やはり調査開始時の綿密な調査デザインが重要であるということが痛感させられる。また、今回の発表では郵送調査など、調査の実施方法についても考えるべきものがあった。郵送調査は多くの場合回収率が落ちる。それはどのような場面で実施しても同様である。また郵送調査に限らず、質問紙調査などに関しては、結局事実に即したデータといいつつも、実態と食い違っている可能性もあるわけで、データとして収集したものを更に吟味していくことが必要であろう。ただしそれには様々な問題も絡んでくる。金銭的なものや人員、時間などである。自分が研究していくにあたって、データの収集というものに関して、もっと詳細かつ綿密に考えていかなければならないであろうということが痛感させられた。

斉藤久美子 今回の発表は,急速な都市化に伴いごみ問題が発生した埼玉県大井町からの委託による,事業系ごみの実態調査についてであった.町内の事業所に対する悉皆調査を行うにあたって,事業所を把握するための台帳の作成から始まった.調査票では,事業所の特性とごみ処理の方法について訊ね,それらデータの関係について分析を行った.調査の分析の結果,一般家庭の区別が不明瞭であるような小規模の事業所が多く,容器包装リサイクル法の適応除外になる企業が多数であることが明らかになった.この調査のように,記名式でのごみの実態調査のようなものは,利害やプライバシーに関わることであるので,事実に即した回答を得ることへの難しさがある.実際に現地に行って確認すると状況が回答とは異なることがあったそうだ.このような調査は,量的な調査ばかりでなく,個別訪問などの質的な調査と組み合わせるとより信頼できるデータとなるとのことだった.
 捉えたい対象と調査によって得られた結果との間には差があることを忘れてはいけない.データは「仮」の現実なのだと思った.

大門信也 今回の発表は、事業系ごみがどのような事業者からどのように出されているかを把握するために行なわれた調査の実施についてであった。方法は郵送による質問紙調査を採用している。調査対象地域は埼玉県大井町、調査年は1997年から1998年の2年度、民間の都市計画コンサルティング会社によって行なわれた。発表者の今西先生は、1998年に前任者の後を引き継いで、この仕事を担当している。
 調査対象となったのは大井町の全事業所であるが、課税台帳が目的外流用のため使用できなかったため、商工会名簿、電話帳、清掃センターへのごみ搬入申込書より作成した。この調査において、多くの時間がこの作業に裂かれたとのことである。社会調査においては、調査の結果のみがデータなのではなく、このような調査を行うための基礎レベルのデータも必要となる。より良いデータを集めるためには、こうした良質な基礎データが必要不可欠であり、それを得るための労力も必要なのである。
 また、その作業が終わっても、良いデータを得るためには、そのための"道具"が良質でなければならない。今回の場合調査票がそれにあたるのだが、質問票がいい加減に作られていたため、回収された質問票に対し"エディティング"という作業を行う必要があった。エディティングとは、例えば記入漏れのある場合事業所へ直接確認するなど、そのままでは無効となる票を有効票へと変える作業である。こういった手間のかかる作業を経て、最終的なデータ得られ、そこで初めて分析が行なわれるのである。
 ただし、こういった作業には限界がある。今西先生によれば、実際に事業所を見てみると、焼却炉は無いと回答してきた事業所に焼却炉があるなど、郵送による質問紙調査による実態把握は問題を含んであるとのことであった。当初それを補うような現地踏査が企画されていたが、実施当時の委託者側の早く実態を把握し対策を考えたいという切迫した状況であったことや、金銭面からの制限により、行うことが出来なかった。このような時間・金銭面による制限は、民間の調査に限った問題でなく、学術機関においても起こり得る問題であろう。
 以上のように、今回の発表からは、良質なデータを集めるためには、収集作業に付随して様々な作業が必要となること、そして時間・資金などの外的な要因による制限があることを知ることができた。このことは、自分の研究にとって、どのようなデータが必要であり、それを集めるためにどのような作業を行わなければいけないかについて自覚し、その上で、データ収集を行う必要があることを示しているといえよう。この点が今回の発表で得られた最大の教訓であった。


カナナデータ研  佐藤達哉(社会心理学研究室)  福島大学行政社会学部