福島民友 2000年9月

辻 みどり(つじみどり):福島大学教授(行政社会学部比較文化講座)。20004月よりロンドン大学客員研究員として渡英。ロンドン在住。45歳。

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 学部から研究休暇の機会をいただき、4月からロンドン大学の客員研究員として滞在しています。大学教員の仕事には、教育・研究・学内行政がありますが、なかでも基本となる個々の研究に専念する機会を保証するために、研究休暇の制度が設けられています。

 私の専門分野は英国ヴィクトリア朝時代(18371901年)の文化と社会の関係を読み解くことです。これまで英国でヴィクトリア朝時代というと「ついこの間のこと」と見なされ、とりわけ当時の経済成長を背景に消費文化の担い手となった中産階級の生活文化の実態については、個々の家庭の生きた歴史や想い出のままになっていました。

 しかし6年ぶりに渡英してみると、21世紀を目前にしてさすがに19世紀を相対化する機運が高まったのか、ヴィクトリア朝時代の地域住民の生活文化を「地域文化」として次世代に伝えるための小規模な生活文化博物館や施設が各地に開設され、小学生の学習の場として活用してもらうための教師用ガイドも個別に作られていました。

 レスター大学やバーミンガム大学ではこれらを効果的に管理運営するための「ヘリテージ(文化遺産)・マネージメント」「ミュージアム・マネージメント」といった講義が開設され、実地調査や理論研究が進められるとともに、現場での担い手が養成されています。

 研究面でも、生活文化研究を取り込んだ学際的な「ヴィクトリアン・スタディーズ」(ヴィクトリア朝研究)の学会が99日に新規発足したり、博物館主催の研究会が開催されたりという状況で、研究が今、ここで動いているさまを実感する一方、この機を捉えてまとまった研究をするための時間が足りないことに焦りを感じています。