WFFロンドン通信 2001年9月

9月末の帰国まであと2週間。引越業者に荷物の集荷を予約する一方、大切な書籍やコピーの荷造りを始めましたが、日中は相変わらず図書館通いを続けています。夏休みに閉館していた図書館が再開したので最後の追い込みです。

今日5時に図書館を出て、運動のためにと地下鉄2駅分歩いて自宅に戻ったところ、ホストファミリーの奥さんから、アメリカで起きたテロ事件のニュースを聞かされました。奥さんはアメリカ人なのでかなりショックを受けている様子でしたが、英国人の夫はパブで飲んでいて夕食に遅れて帰宅したうえ、ほろ酔い機嫌で「ブッシュは犯人を臆病者呼ばわりするが、自分の命を犠牲にしたテロリストはカミカゼ特攻隊に通じる崇高なものがあるのではないか」などと、日本びいきの知識を妙なところで発揮するので、ディナーテーブルが一触即発の危機に見舞われました。

ご夫婦ともアングロサクソン系の白人でありながら、英米の文化背景の違いから生ずる異文化交流(摩擦)は日常レベルで頻発し、時にはアジア人・日本人の私を巻き込み三つ巴になり、この1年半の滞在中に私は「異文化交流実習」の単位をとった気分です。

しかし、つい昨日までこの家では家族会議レベルの緊急事態で混乱していました。末っ子のお嬢さんが妊娠し、結婚せずに産む決意表明を伝えてきたからです。相手がアイルランド系であること、宗教がローマンカソリックであること、高等教育を受けていないことなどがすべて、インテリを自負するこの家の家族からマイナスイメージとして語られていく中、彼女が未婚のまま出産すること自体は議論の俎上に乗らないので尋ねてみたところ、未婚の母は社会現象としてすでに認知されているので世間体に問題はない、二人が辻褄あわせのために結婚するより、養育費の責任問題をはっきりさせることが必要だという説明でした。この家での問題の焦点は、民族の系列と宗教の相違、教育レベルの相違にあるようです。

街の中でも、現実として民族・宗教・人種など多様な異文化が共存する中、それらの条件と密接に関連して男女という異文化共存の問題が位置付けられ、一方女性というくくりの中でも異文化別対応が必要だったり、摩擦が生じ得ることになるようです。来年のW杯がらみで国内の異文化交流も加速的に展開するでしょうし、異文化共存を前提とした意識への切り替えが求められることになりそうです。