WFFロンドン通信 2001年3月

 ロンドンはこのところ暖かい日々が続き,市内の緑地ではクロッカスや黄色いラッパ水仙が群れなすように咲き始めています。とりわけ,石造りの建物の合間に桜の花が咲き始めているのを見かけた時には,早い春の訪れを実感し胸おどる気持ちでした。

 ところがカリフォルニア生活を経験した同僚が言うには,あれはアーモンドの花で,ご自身確認するために傍まで行き,花と一緒に実がなっているのをチェックしたというのです。淡いピンクの花が綿雲のように枝を取り巻き,本当に桜のように見えたのに,せっかくの感動の行き場を失ってしまいました。

 しかしそう言われてみて,日本について書いた19世紀英国の文献に「アーモンドの花咲く国」という表現が何度も出てくることを思い出しました。桜よりもアーモンドの花に親しんでいた人々は,桜の花の絵を見てアーモンドだと考えたようです。育った文化による思い込みによって生じる誤解は,お互い様でした。

 こういった情報不足による異文化への誤解がある一方,情報量の増加に伴って誤解を生じる可能性もあることを思い知らされる出来事がありました。

 それはチャンネル4というテレビ局が"The Secret Life Of Japan"というタイトルで,年末年始のゴールデンタイムから夜中の2時まで日本の特集番組を放映したときのことです。最初は経済不況の取材で,京都の橋の下で暮らすホワイトカラー出身ホームレスなどが登場したのですが,続いて,"Teenage Japanese Killers"(暴走族から17歳犯罪まで),さらに"Tokyo Bound"(新宿のSMクラブの「女王様」役の女の子がたくましく生きている話と緊縛術一筋の「アーティスト」の取材),さらに「アダルトビデオの王様」と呼ばれる男性と「大人のおもちゃ」屋の取材,最後はポルノ映画でした。

 西欧人にとっては,日本女性の従来のイメージ「ゲイシャガール」が「女王様」に転じ,男性が「侍」からマゾ的なお客や優しいボーイフレンドに転じるのが,新しい傾向の発見で面白かったようですが,私自身は日本人は一体どう思われてしまうのかと,翌日街を歩くのが怖いくらいでした。「普通」というくくりは注意が必要ですが,「普通っぽい日本人の普通っぽい生活」について知ってもらうには,個別に語り続けるしかないのでしょうか。