『心理学史・心理学論』創刊号 掲載論文和文要約

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原著

日本の現代心理学形成にかかわる学問史的検討

−明治・大正期に留学した先達、事例検証「堀梅天」の場合−

西川 泰夫(北海道大学文学部・心理システム科学講座)

mailto:nisikawa@psych.let.hokudai.ac.jp

要約: 明治・大正期にアメリカに留学し学位を取得の後、帰国した多くは「日本の現代心理学」の創設者としてまた各大学に心理学を定着する役割を担い、そこに培われた伝統は現在にまで脈々と流れている。彼等の学んだ先は、Johns Hopkins 大学、あるいはClark大学の直接間接にG.S.Hallのもとであった。しかし、その後の日本の心理学での本流に名を止めることのない先達も多い。またそうした記録は、学んだ先のアーカイブなどに保管されているか、本人が書き残したものなど以外は、日本の心理学史の上に公式に記録・保管されているというわけでもないといってよい。そうした隠れた一人の人物に光を当て、その足跡の一端を追うとともに、この人物史から当時の心理学事情など日本の心理学の原点を学問史的に検証する。その人物の名は、堀 梅天(ほり ばいてん)という。

キーワード:堀梅天、G.S.Hall、クラーク大学アーカイブ、ジョンズ・ホプキンス大学、学位取得心理学留学生、日本の心理学史。

心理学史のヒストリオグラフィー

−アクロン大学心理学史資料室蔵書を通じて−

溝口 元(立正大学社会福祉学部・生命科学研究室)

mailto:hazime@risgw.ris.ac.jp

要約:日本の現代心理学の形成過程を解明する歴史叙述の方法論(ヒストリオグラフィー)を、これまでに刊行された心理学史・心理学論関連図書における議論から検討した。その際、米国アクロン大学心理学歴史資料室蔵書を用いた。英書では1960年代から本格的なヒストリオグラフィーに対する議論がみられ、実際の心理学的研究への有効性と時代精神を考慮した記述が考えられるようになった。従来の心理学史の限界を見定めた新たな心理学史構築への基盤の整備を呈示した。

キーワード:心理学史、ヒストリオグラフィー、アクロン大学心理学歴史資料室

1939(昭和14)年の文部省「高等学校心理教授要目」改訂時におけるゲシュタルト心理学化をめぐる争い

佐藤達哉(福島大学行政社会学部・社会心理学研究室)

mailto:a096@ipc.fukushima-u.ac.jp

要約: 1939(昭和14)年に改訂が試みられた文部省「高等学校心理教授要目」の原案は、科目内容のほとんどをゲシュタルト心理学で体系化するものであり、心理学者で文部官僚の小野島右左雄の強い指導力のもとに提案された。心理学界において、学説としてのゲシュタルト心理学の優位性を認める小野島は、国体明徴、教学刷新という時局のもとでゲシュタルト心理学こそが国民教育に資すると考えたのである。だが、この案は桑田芳蔵東京帝大教授をはじめとする多くの心理学者から内容・手続き両面へのの反対を受けて廃案となった。本論文はこの一連の過程の背景・経過・顛末について検討したものである。この紛争は心理学界内部のことにすぎないとも言えるが、対立が勃発した背景には当時の日本の時局も大きく関連しており、心理学界内部の出来事を社会状況との関連で考えることの重要性も示す事件であると指摘した。

キーワード:高等学校心理教授要目、ゲシュタルト心理学、小野島右左雄、桑田芳蔵、教学刷新

研究ノート

1945年までに海外の専門誌に掲載された日本人心理学者の論文

高砂 美樹(山野美容芸術短期大学・心理学研究室)

mailto:takasuna@yamano.ac.jp

要約:戦前の心理学者の国際的交流を知る一つの資料として、1945年までの海外の専門雑

誌に掲載された日本人心理学者の研究を一覧にしてみた。資料には、Psychological IndexおよびPsychological Abstracts の2誌のほか、戦前期に行われた12回の国際心理学会抄録集を使った。調査の結果、47名の日本人名と94編の論文を収集したが、多くの論文は海外とくにアメリカ滞在時に投稿されたものであることが推察された。

キーワード:日本人心理学者、心理学雑誌、戦前期、心理学史、文献調査

資料

文部省「高等学校心理教授要目」(1928(昭和3)年〜1946(昭和21)年)

佐藤達哉(福島大学行政社会学部・社会心理学研究室)

mailto:a096@ipc.fukushima-u.ac.jp

高等学校教授要目とは、(旧制)高等学校で教えられていた教科についてその教授内容の概要を文部省が定めたものである。こうした教授要目は、1918(大正7)年の高等学校令(第二次高等学校令)以降に文部省訓令として出されるようになった。心理学は単独の科目として教えられていたわけではなく、「心理・論理」という科目の一部であった。教授要目は1928(昭和3)年に制定されて以来4回にわたって改訂されている。以下では『旧制高等学校全書 第3巻教育編』(旧制高等学校資料保存会編纂、1981)に収録されている「心理・論理」教授要目の中から、心理学に関する部分のみ抜き出して全5回分の変遷を紹介する。


『心理学史・心理学論』創刊号目次